『「若きゲーテ」研究』に見るノストラダムス
2017-02-17


勿論ノストラダムスの秘書を点出し来るところに詩人の伝説的材料に対する注意を見るべきであるが、この秘書によって初めて霊の降出があるのではなくして、自然に目覚めたるファウストのたましいが、今や万象の中に霊性なるものの存在を認識し得る確信が生れ、そこから自ら予想されるBeschwoerung(注:召喚魔術、祈祷)である。故に彼はこの秘書を未だ開かぬ中に既に自己の周囲には多くの霊が近づきただようていることを感ずる。(863頁)

そして彼はノストラダムスの秘書を開く。彼が初めて見たのはマクロコスモスの表号である。(865頁)

ここで意味される賢者はノストラダムスを指しているが、ゲーテがノストラダムスの名を借りて表わさんとした賢者は、当時彼の思想に共鳴するところ多かったスウェーデンボルクである事は、エーリヒ・シュミットがこれを指摘し、マックス・モーリスがそのゲーテ研究に於て詳細に引証しているところである。(867頁)

ファウストがここに述べているものはいうまでもなくノストラダムスの神秘書中に描かれたマクロコスモスの表号である。(872頁)

彼が大勇猛心を振起して求めんと誓った真理も、自然のWirkungskrafft(注:因果関係の強さ)(後にWirkenskraft(注:功徳の強さ))とその根源とであり、やがてマギーの力(ノストラダムスの表号)によって『あはれな心を喜びを以て満たし、且つ不可思議なる衝動を以て満たすと共に』彼の心に啓示されたと信じたものは、実にこの『自然の力』であった。(874頁)

既に久しく彼の左右にあるノストラダムスの秘書に就いて以前にも幾度かこの霊の表号を見たものであろう。(885頁)

文中に何度も出てくる「秘書」というのは、大辞林 第三版によれば「秘蔵して、めったに人に見せない書物・文書」とあり、現在では「社長秘書」のような用例が多いが用語としては残っている。「ノストラダムス自筆のこの神秘に満ちた本は、」(高橋健二訳)という一部分について『「若きゲーテ」研究』のなかでは何度も言及されている。ただし、引用するたびに「神秘書」「秘書」「魔書」等といろいろと表現を変えている。しかしながら著者自身が具体的にノストラダムスの本の中身に関する注釈を行った形跡はない。ファウストの文脈からの推定と海外研究者の見解をもとに整理したと思われる。

どうしてファウストがノストラダムスの書を道連れにしようとしたか、そこから論点を広げようとしている。この書とは『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』を指していると見なせるが、ゲーテの研究者サイドは唐突にノストラダムスの名前が出てくるのに頭を悩ませたのであろう。ゲーテが実際に「ノストラダムスの予言集」に目を通していたかはわからない。『ウルファウスト』を順に読んでいくと、それはファウスト自身が自分の周囲に漂っていると感じる霊を実際に呼び寄せるための触媒となり得るものである。そしてそのツール自体がマクロコスモスに呼応しているということだろうか。

戻る
[ノストラダムス]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット