デュ・ベレーの手紙にはノストラダムスの名前をもじった有名なラテン語の二行連句が引用されている。注目すべきはノストラダムスの生前にすでに発表されていたことであろう。実際に活字になったのは1568年のCharles Utenhove (1536-1600)のXenia seu Allusionum(提示または暗示、Google Booksで閲覧可能)のなかでほぼ近いテクストが見られる。その比較をしつつ詩句の変遷を追ってみたい。
デュ・ベレーの手紙の二行連句
Nostra damus, cum verba damus, nam fallere nostrum est,
Et cum verba damus, nil nisi nostra damus.
シャルル・ユタノーヴの二行連句
C. V.
Mich.Nostradamus.
Nostra damus, cum verba damus, qua fallere nostrum est,
Et cum verba damus, nil nisi nostra-damus.
C. V.というイニシャルが添えられているがユタノーヴ以外の作者を暗示しているだろうか。
その後『ラ・クロワ・デュ・メーヌ殿の蔵書 第1巻』(パリ、1584年)でも取り上げられている。ここがおそらく後代の関連書のソースとなった記述といえる。
Nostra damus, cum verba damus, nam fallere nostrum est :
Et cum verba damus, nil nisi Nostra damus.
我らが言葉を与えるとき、我らは自らのものを与えるのだ、欺くのが我らの性質なのだから。
ゆえに我らが言葉を与えるとき、自らにないものは与えられないのだ(sumaru訳)
このなかでデュ・メーヌは作者をパリのエチエンヌ・ジョデルと示している。この句が一部の人々からは褒め称えられたと記している。復刻された1772年版の注釈のなかで「それに反して私はシャルル・ユタノーヴの「暗示」の書物の108頁に見出した。またパタンはアンドレ・ファルコネへの1655年8月30日の手紙で伝えている。彼はフレデリック・スパンエイムが dubiis Evangelicisのなかでそれをベズとして引用していると。そのためか、日本での初出と見られるカート・セリグマンの『魔法 その歴史と正体』(1961)では作者に関してこういった形での紹介となっている。
ある詩人、たぶんベズかジョデルは、この予言者の名前をもじって辛辣な二行連句を書いた。
Nostra damus cum falsa damus, nam fallere nostrum est,
Sed cum falsa damus, nil nisi nostra damus.
(大意は、「われわれは嘘をつくことで、自分のものを与える、そうするのが仕事だから。だが嘘を分け与えてしまうと、あとにはこの自分自身には与えるものが何もなくなる」)
1656年の解説書『ミシェル・ノストラダムス師の真の四行詩集の解明』49頁にはこの二行連句を模倣したレプリカが載っており、ジャン・ムーラとポール・ルーヴェの『ノストラダムスの伝記』(1930)173頁に引用されている。ピーター・ラメジャラーも『ノストラダムス・百科事典』(1997)119頁で言及している。下記の和訳はいずれもピーター・ラメジャラー『ノストラダムス百科全書』252頁による。
ジョデルの二行連句
Nostra damus cum falsa damus, nam fallere nostrum est,
Cum falsa damus, nil nisi nostra damus.
我々は嘘をつくとき自分の嘘をつく、間違うのは我らだからである:
そして嘘をつくとき自分の嘘をつき、自分の嘘しか持ち合わせない。
ノストラダムスの友人の二行連句
Vera damus cum verba damus quae Nostradamus dat,
Sed cum nostra damus, nil nisi falsa damus.
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