モトゥールの詩
2020-11-30


ちなみに1555年版『予言集』第2巻46番にでてくるモトゥールの綴りはmouteurであって、フレデリック・ゴドフロワの辞典第5巻を見たが載っていない。モトゥールの正書法がmoteurに代わったのが1568年版予言集A版あたりでオリジナルに近いとされるX版ではmouteurのままであった。moteurであれば12-14世紀の詩語が含まれた「Dictionnaire historique de l'ancien langage Francois」第七巻432頁でも「動きを与えてくれるもの」という語義を確認することができる。そのためLe grand mouteur は「巨大なモーター」ではなく「大いなる原動力」(ピエール・ブランダムール校訂/高田勇・伊藤進編訳、『ノストラダムス 予言集』1999年、163頁 または、スチューワート・ロッブ/小泉源太郎訳、『オカルト大予言』1974年、56頁)と読むのが妥当である。ではモトゥールとは具体的に何を意味しているだろうか。

リトレの辞書第3巻641頁によると、「哲学者たちは知っていながら崇拝していないが、神は第一の原因で第一のモトゥールの上に無限である」。これはグノーシス主義の影響を受けているトリテミウスの『De septem secundeis』(直訳すると『七つの第二原因について』、神に従って惑星が張り付いた球体を動かす七つの知性)のトリテミウス周期の概念に近いと思われる。同書の最後の部分にこう書かれている。「第20期は、天地創造6732年の4ヶ月目、すなわちキリスト紀元1525年6月4日に、月の天使ガブリエルが再び世界の方向を司ることになる。ガブリエルが世界を治めるのは、天地創造7086年の8ヶ月目、つまり主の年1879年までの354年4ヶ月間である。

これを参照したリシャール・ルーサの著作にある「月がその通常の運行(354年4ヵ月)を完成するため7086年8ヵ月まで支配を握り、その後太陽が支配を握る」を読んだノストラダムスが、惑星天を動かす原動力としてモトゥールという言葉を用いたのではないかと思う。「セザールへの序文」のなかで「今(1555年当時)、我々は永遠なる神の全能のおかげで月に導かれている、月がその全ての周期を完了してしまう前に、太陽が来るだろう、次いで土星が来るだろう」とある。詩百篇1-48には「月の支配の20年が過ぎて」とあるのでノストラダムスが1525年を月の支配の始まりとみていたのは間違いない。ノストラダムスの生きた時代背景を考慮することでモトゥールという謎と思われる詩句も理解できるようになるのだ。


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