オカルトの秘密
2008-03-08


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ノストラダムスの予言に対する研究家といえば、予言が当たるという前提で過去の大事件がこれだけ的中しているとか、将来どんな事件が起きるかを予言集から読み取る、といったオカルト的な立場の人間というイメージが強かった。こうした系統に属する人たちをビリーバー(信奉者)という。日本では第一次ブーム以降ノストラダムス業界では彼らが圧倒的な勢力を誇っていたが、現在ではこれに否定的な立場に立つ懐疑者が主流を成してきている。ノストラダムス・リサーチ・グループしかり、ウィキペディアなどを見ても検証可能な情報源に基づいた実証的な論評にウェイトが置かれている。

1970年代にオカルトブームが起こった当時、今はもう無くなってしまった大陸書房から「オカルト・四次元」シリーズの読み物が次々と刊行された。その中で未来を覘く予言のような超自然現象をジャーナリスティックな視点から冷静に論じた本も含まれていた。ダニエル・コーエンは『オカルトの秘密』(原題"The magic art of foreseeing the future, 1973")で未来の予知に関わる様々なトピックを客観的なスタンスで紹介している。もちろん批評的な目を向けている部分もあれば、こうした現象に対する人間的共感も随所に行き届いている。同書183頁から196頁までノストラダムスと彼の予言について簡潔にまとめている。

そこでは、まず伝統的な伝記が取り上げられ、有名な予言についての解説が見られる。百詩篇1-35はアンリ二世の横死と受け取られたものであるが、懐疑的な見解を示している。事件と予言の内容の細かな点の不一致、ノストラダムス解釈者たちの御都合主義などを冷静に示す。「ノストラダムスの解釈者たちは、彼の四行詩をある出来事に、しかもそれが起きたあとで、こじつけるきわめてすぐれた能力を持っている。しかし、彼らがノストラダムスを未来への指針として用いようとすると、その解釈はどうにもうまく行かなくなってくるのである。」コーエンのノストラダムスに対する率直な印象だがジェームズ・ランディのものかと見紛うばかりだ。

一応フォローを付け加えることも忘れていない。懐疑的な研究者L・シュプレーグとカトリーヌ・ド・キャンプはノストラダムスの予言とその解釈についての研究書のなかで、ただ一つ「予知の信仰を支えてくれる」ものを発見したとして、百詩篇3-96を紹介している。もちろんド・キャンプはこの予言に感動したわけではない。「多数の疑わしいものの中で一つだけ当たったものがあるからといって、それは強力な証拠とはならない」。もっとも現在ではこの詩の伝統的な解釈の問題点も指摘されている。結局ノストラダムス現象というものは、信じる派と疑う派が両軸を支える形で形成されていったのではないだろうか。
[ノストラダムス]

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