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金森誠也編著 悪の人心掌握術―『君主論』講義 中公新書ラクレ 2005年 を読んだ。タイトルは随分とインパクトがあるが、副題にあるように、マキャヴェリの有名な『君主論』をわかりやすく解説した書である。マキャヴェリはルネサンス・イタリアで国防および外交を担当とする書記官として混乱の世を客観視しながら君主とはどうあるべきか思考実験を行っている。相手をあざむき、侵略し、征服するという権謀術数を計らう「非常の論理」を展開していると、これまであまりいいイメージは持っていなかった。オリジナルも読んだことがなかったので今回は入門編として捉えていた。『君主論』で掲げている論理は現実を直視し、歴史を参照しながら人間の本性というものを鋭く観察した結果に他ならない。
人間の本性は幾多の時代を経てもそんなに大きくは変わらない。その本質を「悪」とするマキャヴェリの金言は十分現代でも通用する。ただし、これが最も当てはまるのは一個人に対してではなく、組織の一番上に立つトップのあるべき資質なのである。16世紀当時の侵略による領土拡張を策略するチェーザレ・ボルジアのような君主を今日の企業買収を目論む経営者に置き換えると実にピタリと当てはまる。以下は項目を拾ってみる。自由の味をしめた人民は弾圧するしかない。強権がなければ統治は長続きしない。恩賞は小出しにあたえる。幹部には過分の地位と報酬を与える。リーダーは愛されるよりも恐れられるべき。冷酷な粛清は一気呵成におこなう。リーダーはケチと呼ばれても気にしない。一度傷つけられた人間は優遇されても恨みを捨てない。憎まれ役は幹部に負わせる。重用した幹部には全幅の信頼を置く。など
ところで、この本の編著者金森氏といえば、1980年代初めに何冊か予言ものの関連本を手がけている。マリオ・ツァノートとの共著『洪水大予言』や単独の著書『惑星グランドクロス』など。70代にはカイザーやムークの本を翻訳している。そういった本は紀伊国屋のウェブで検索しても出てこない。当時は亜細亜大学教授であったはずだが、本書の著者紹介にはまったく触れられていない。消し去りたい過去というわけでもないのだろうが・・・
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