先を読む頭脳
2009-04-14


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羽生善治 伊藤毅志 松原仁 先を読む頭脳 新潮社 2006年 大学時代の知り合いが執筆していることもあり、ずっと読もうと思っていたがようやく読み終えた。この本は最近文庫化されて書店に並んでいる。構成は、まず各章の冒頭で、将棋界のトップ棋士である羽生のインタビューをもとに、羽生の思考回路を羽生に語らせる形で見える化する。それに対して認知科学と人工頭脳の専門家の目を通して、エッセンスを抽出し一般事象化した解説を行っている。羽生のインタビュー本(あるいは対談)はこれまでにもいろいろ出ているが、そのなかでもこの本は羽生の考えが論理的によく整理されていると思う。一番印象に残ったのが、将棋のプロになる上で大事な要素として継続力を挙げていることだ。

単純化すると、将棋が好きで好きでしょうがないことなのだが、それをもう少し具体的に示してくれる。「非常に難しくてどう指せばいいのかわからないような場面に直面したとき、何時間も考え続けることができる力。そして、その努力を何年もの間、続けていくことができる力」、これはどんな世界のトップにも共通する公理といえる。解説では、これをさらに一般化して「考え続けること」は「新しい課題を見つけ続けること」でもある。どの分野でも同じことがいえるが、その世界で成功を収めている人は、「自分でテーマを見つけ、考え続けることができる人」というのも共感できる。こんなふうに、様々な興味深いテーマを掘り下げていく本書は、「向上心ある日本人のための画期的な一冊」というキャッチフレーズも十分納得できる。

コンピュータ将棋については、まだ初期の頃に松原氏の本を何冊か読んだことがある。人間が将棋を指す場合に読みを入れて最善手を探索するプロセスを、コンピュータのロジックに置き換えるのがいかに大変なことか、ほんの少しは理解しているつもりだ。現在のコンピュータ将棋はすでにアマのトップクラスまで到達している。そうしたエキシビジョン対局も数多く行われている。本書はトップ棋士(渡辺竜王)とボナンザの歴史的な一戦の前に書かれたものだが、その方向の予見性は間違っていない。今後もプロと対等に対戦できるレベルのコンピュータ将棋が出てくるだろう。そのXデーがいつになるのか、興味は尽きない。
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