ノストラダムスの著作については近年かなり情報が整備されてきた。とはいえ、まだまだ未解決の部分の多いことが逆に魅力となり興味を引き立てているところもあろう。最近は欧州の古い文献もインターネット上で閲覧することができるため、今までノストラダムス研究書のなかでしか見たことのない文献が簡単に入手できるようになった。ノストラダムスは生前、予言集をはじめとして暦書や予測書は毎年のように世に送り出していた。しかし16世紀当時にはまだまとまった文献書誌という観念はなかったと思われる。リアルタイムの記録がなければ後年の後追いでの調査に頼らざるを得ない。
そのなかにあって貴重な同時代の証言といえるのが、1584年のラ・クロワ・デュ・メーヌ(La Croix du Maine)と1585年のデュ・ヴェルディエ(Du Verdier)であろう。
ノストラダムスの大事典にはそれらの書誌のなかのノストラダムスの項が全訳されている。それに加えて丁寧な注釈が施されており、非常に有益な資料となっている。ノストラダムスの項について、ラ・クロワ・デュ・メーヌの書誌は、1772年の『ビブリオテック・フランソワーズ』 第二巻に、アントワーヌ・デュ・ヴェルディエの書誌は1773年の同書第五巻に復刻されている。いずれもGoogle Booksで公開されており、原文と補注を参照できる。
同時代の書誌学者の貴重な記述であるには違いないが、著者の目の届いた文献の紹介しか見られないし、かならずしも網羅的に書誌情報を収集しているわけではない。また明らかに事実誤認の記述も一部に見られる。後世の時代に大きな影響を与えた情報が、ラ・クロワ・デュ・メーヌの挙げた、1556年リヨンでシクスト・ドニーズ(Sixte Denyse)により印刷されたというノストラダムス予言集である。この予言集は現在も存在が実証されておらず、いまなお謎につつまれている。似た名前のエチエンヌ・ドニーズは知られているが、シクスト・ドニーズという出版業者の存在は確認されていない。
ラ・クロワ・デュ・メーヌは16世紀の書誌学者の権威と見なされたか、たとえば1961年のエドガー・レオニのノストラダムス研究書のなかでも言及されている。その真偽については「(予言集のみならず)この出版業者の名前さえ記録にない」とコメントしている。ヨーロッパの文献カタログは現在も充実したものが古本書店で作成されている。これまでいろいろなノストラダムス文献を注文したからか、海外からよくブックリストのカタログが届く。最近"La fontaine d'Arethuse"というエゾテリスム関連のカタログ2014年版が手元に届いた。カラー印刷の56頁のパンフレットだが眺めているだけでも楽しめる。
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